
2025年夏、ITO BINDERYとニューヨークのデザインスタジオ「TrashType」によるコラボレーション・プロジェクトが実現しました。手がけたのは、タイプデザイナーのMark Johnsonさんと、イラストレーター兼クリエイティブ・プロデューサーのLiz Ryanさん。今回は、お二人にこのDrawing Pad制作の背景と、新しい書体 “GORP” に込めた想いを伺いました。
きっかけは、一冊のドローイングパッドから
Mark: 僕は以前からITO BINDERYのドローイングパッドを様々なサイズで愛用していました。Mixpanelでプリンシパル・プロダクトデザイナーとして働いているのですが、あたらしく入社するデザイナーのウェルカムキットとしてプレゼントすることがよくあるんです。僕が2023年に日本に訪れたとき、ITO BINDERYのショップに立ち寄る機会があり、Masaki(弊社代表)に案内してもらいました。とても素敵な空間で、「コラボレーションも可能です」と聞き、それをずっと心に留めていました。

今年の初め、友人のLizとカフェで会って「新しい書体 GORP をどうデザイン界に紹介しようか」と話していたとき、デスクまわりのプロダクトを作りたいというアイデアが出ました。そこで真っ先に思い浮かんだのがITO BINDERYです。Masakiが快く引き受けてくれて、本当にうれしかったです。
“GORP”という名のフォントが生まれた理由

Mark: GORPは、長文を読みやすくするために設計したテキストフェイスです。ニューヨークのCooper Unionが運営するType@Cooperプログラム(Extended Program)に通っていたときに制作を始めました。
きっかけは、1978年から1995年まで刊行されていた科学・未来・空想をテーマにした雑誌「OMNI」です。当初はその雑誌のためのエディトリアル書体を作りたいという動機から始まりましたが、次第に「GORPをもっと自由なものにできる」と気づきました。
そこから「GORP」という架空の物語を作り上げました。GORPとは “Glyphs Optimized for Reading Properly(正しく読むために最適化されたグリフ)” の略で、銀河共和国の書体設計者 Jark Monsoon によって作られた、銀河公認のフォントという設定です。人類は本来、アポロ11号のミッションの際にこのフォントを受け取るはずだったのですが、当時はまだインストール技術がなく、実現しませんでした。そこでMonsoonは地球のフォントファウンドリー「TrashType」に連絡を取り、いまこうして一般に公開されている、というストーリーです。この世界観は「GORP Adventures」(https://gorp.lol)というゲームでも楽しめます。
コラボレーションデザインに込めた想い

Liz: 私とMarkは長い友人で、これまでも何度か一緒に仕事をしてきました。今年は偶然、同じ建物内にスタジオを構えることになり、より密にアイデアを交換するようになりました。
Markが手掛ける“GORP”には、文字そのものに物語が宿っていて、「フォント」という枠を超えた表現になっているところがとても魅力的でした。
Mark: Lizは現実的な視点を持ち、私の空想的な発想をうまく形にしてくれます。僕はアイデアに夢中になってしまうタイプなので、Lizのサポートで地に足をつけながら進められたことに感謝しています。たくさんの案を話し合いましたが、ドローイングパッドというアイデアでふたりともすぐにワクワクしました。
Liz: PRやブランドアイテムって、しばしば使われずに捨てられてしまうことがありますよね。今回はデザイナーにとって美しく、GORPとTrashTypeの世界観を紹介できるアイテムにしたいと思いました。そして何より、私たち自身が「欲しい」と思えるものにしたかったんです。Markはずっとネオンやデイグローカラーに夢中なんですよ(笑)。
Mark: ただ、楽しいものを作りたいんだよ、Liz(笑)。

Liz: ITO BINDERYの製品は普段、落ち着いたトーンが特徴ですよね。だから私たちの提案をMasakiが受け入れてくれるか正直不安もありました。でも結果的にMasakiは快諾してくれて、素晴らしい紙をいくつも提案してくれました。サンプリングから製造まではとてもスムーズでした。

Mark: 完成品を見た瞬間、感動しました。精密に作られ、美しく、そして——あまりにも明るくて、宇宙からでも見えるんじゃないかと思うほどです(笑)。

Profile
Mark Johnson
ブルックリンを拠点とするタイプ/プロダクトデザイナー。
SCAD卒業後、Cooper UnionのType@Cooper Extended Program修了。Mixpanel、eBay、Twilio、InVision、Pentagramなど、数多くの企業やデザインプロジェクトに携わる。


Liz Ryan
イラストレーター/クリエイティブプロデューサー。
MSCHFで4年間、世界各地でのアートプロジェクトを手掛けた後、独立。現在はPentagramのGiorgia Lupiチームとのコラボレーション、Neal.funのWebプロジェクト、建築スタジオや個人からのイラストレーション依頼など、幅広く活動。
仕様 / Specification

TrashType GORP×Blackmount Drawing Pad
サイズ:210 × 168 mm
用紙:コーラルレッド・50枚
台紙:再生紙
加工:平綴じ
パッケージ:再生紙
